研究室の紹介

教授挨拶

2018年4月より広島大学大学院医歯薬保健学研究科・解剖学及び発生生物学研究室の主宰者となりました池上浩司と申します。 70年という歴史を持つ研究室を引き継いだことを光栄に思っていますが、 実際のところ、70年という歴史に大きなプレッシャーを感じているというのが正直な感想です(歴代の先生方、失礼な物言いをお赦しください)。 さて、研究室の歴史は次項に、私の自己紹介は広島大学の公式研究者総覧に、 また研究の詳細は本研究室ウェブサイトの研究内容のページに譲るとして、 ここでは解剖学を取り巻く環境の変化に関する雑文を書かせていただきます。

研究室ができて70年、解剖学を取り巻く環境は大きく変化しました。 医学教育のための献体が広く知られるようになり、今日では充実した解剖学教育を医学生に提供できるようになりました。 献体してくださったご本人やそのご遺族にこの場を借りて感謝申し上げます。 さて、その教育としての解剖学はこの数年、大きな変革の最中にいます。 解剖学教育の対象が医学生だけでなく現役の医師も含むようになってきました。 昨今の発展著しい医療技術や手術手技に対応するためには、現役の医師を対象とした実践的解剖学教育が必要である という考えのもと、国(厚生労働省)や関連学会(日本解剖学会、日本外科学会)がルールを整えました。 教育としての解剖学における一つの節目になることは間違いありません。

研究としての解剖学もこの20年で大きく様変わりしたと感じています。 かつては観察主体であった解剖学も、分子生物学的手法を取り入れた『介入型』の研究へとシフトし、 からだや組織の形態学的特徴を単に観るだけではなく、 その分子的なメカニズムやその機能学的な意味を追究するものが多くなりました。 iPSやゲノム編集、昨今とくに病理学の分野で流行のオルガノイドなどは、 からだの構築を試験管内(実際には培養皿の上)で再構成しながら、 そこに関与する遺伝子の自由自在な操作を可能にすることから、 新しい時代の解剖学研究にとって重要な技術となることは想像に難くありません。

以上のとおり、教育と研究の両面で大きく変化していく解剖学(実際には生命科学、更には科学全般)に 取り残されることなく、乗り遅れることなく、研究室を盛り上げていかなければならないと 強く心に感じております。今後とも引き続きどうぞよろしくお願いいたします。(平成31年2月執筆)

研究科広報誌「BioMed News」掲載の挨拶文
日本解剖学会会報誌「解剖学雑誌」掲載の挨拶文

研究室概要

解剖学及び発生生物学研究室のルーツを辿れば太平洋戦争末期に設立された 広島県立医学専門学校の解剖学教室ということになるはずですが、 1945年8月5日に開校して翌8月6日の原爆投下で学校そのものが廃墟と化し、 着任したばかりの稲田萬作教授も犠牲となるなど、 解剖学教室としての活動とその記録はほとんど残っていません。 したがって実質的には、戦後に設立された広島県立医科大学の解剖学第一講座が現研究室の起源となります。 解剖学第一講座(現 解剖学及び発生生物学研究室)は 1948年に初代・今村豊 教授が着任して以来、 学部教育の肉眼解剖学(マクロ解剖学)と発生学を主として担当してきました。 現在もこの担当分野は継承されており、主に以下の科目の教育を担っています。

  •  人間理解のための人体解剖学(医学科及び薬学部1年生)
  •  系統解剖学(医学科2年生)
  •  人体発生学(医学科2年生)
  •  骨学実習(医学科2年生)
  •  人体解剖学実習(医学科2年生)

研究分野も教育分野と概ね一致しており、 初代・今村教授は人類学、第2代・澤野教授は胎児発生学、第3代・安田教授は先天異常、第4代・青山教授は肋骨形成を 主たる研究分野に研究室を主宰してきました。 現教授・池上は分子、細胞、組織といった顕微解剖学の視点で研究に取り組んでいますが、 発生学の重要なキーワードである『極性』を対象としており、 研究室として分子から個体まで多階層に跨る解剖学・発生学研究を展開しています(詳細は本ウェブサイトの研究内容をご覧ください)。

歴代教授

  •  初代  今村 豊  教授(1948年~1952年)
  •  第2代 澤野 十藏 教授(1953年~1977年)
  •  第3代 安田 峯生 教授(1977年~2001年)
  •  第4代 青山 裕彦 教授(2001年~2018年)
  •  第5代 池上 浩司 教授(2018年~)